企業は子どもたちに何ができるか
~旭化成「出前授業」の取り組み~

2009/03/27

「子どもたちの理科離れが指摘されていますが、少しでも歯止めをかけることに役立ちたかった」
 「教育・次世代育成」をCSR活動のテーマの一つとして掲げている旭化成。CSR室長の高見澤 正氏は、なぜ旭化成が「出前授業」に取り組むのか、その理由を語りました。
 平成5年版科学技術白書において、科学技術庁(当時)は調査結果として、20代の若者の科学技術離れを指摘しました。科学技術に関するニュースや話題に対する若者の関心は年々低下。著しく低くなっているというデータが示されたのです。以来、「理科離れ」に対する議論は活発化しています。が、いまだ具体的な方策がとられていない状況にあります。科学技術立国ニッポン。ものづくりへの回帰が叫ばれる中、このままでいいのかという不安の声が聞かれます。

 そんな中、子どもたちの科学技術に対する関心が高まるよう、活動を展開している企業。その一つが「人びとの“いのち”と“くらし”に貢献する」を基本理念に掲げている旭化成です。ものづくりの会社として、世界に誇れる先端技術を持ち、たくさんの技術者がいます。子どもたちに、科学技術の面白さを伝え、ものづくりの現場に触れることで、理科に興味と関心を持ってもらおうと旭化成は考えました。


■出前授業で知る「考え答えを見つける喜び」

旭化成が取り組んでいる「出前授業」とは、地域の学校に旭化成の技術者が出向いて授業を行うケースと、学校から工場に出向いて授業を行うといった二つのパターンがあります。
 2008年、宮崎県のある中学校に実験キットを抱え、訪れた人たちがいました。先頭を行くのは、旭化成の技術開発部長です。この日、その中学校では「出前授業」が開かれました。
 子どもたちの前に出された物は、「薄層クロマトシート」。ある混合液が浸み込ませてあります。実は、この混合液には赤、青、黄色の3種類の色素が含まれています。が、シートを見ただけでは、何色の色素があるのかはわかりません。ところが、このシートを特殊な溶剤に浸すと、シート上に赤、青、黄色の三色が分かれて現れるのです。今回の出前授業は「色素の分離」がテーマです。生徒の一人ひとりが研究員になって、研究を進めていくのです。
 色素を分離させる溶剤には「ヘキサン」「酢酸エチル」を混ぜたものを使います。ただし、単純に「ヘキサン」「酢酸エチル」を混ぜて、シートを浸しても色素は分離しません。ある比率でこの二つの液を混ぜ合わせなければならないのです。2対1がいいのか、それとも3対1か、あるいは4対5か。その日の研究テーマは、この比率を子どもたちが探すことでした。
「まずは1対1でやってみよう」
 子どもたちは自分で考えトライします。しかし、結果は、残念ながら失敗。うまく色素が分離しません。次は別の比率で再トライ。考えて、再びチャレンジして、結果を見て考える。繰り返しの中で、子どもたちは夢中で実験を進めていきます。時折、声をかける講師の言葉が場を盛り上げます。
「赤、青、黄色に分かれた!」
 ついに、答えを見つけ出した子どもたちは大喜びです。正解は「9対1」。研究って楽しいものなんだ。自分たちで考え、答えを見つけ出したことに子どもたちは喜びを感じたようです。


出前授業

出前授業 講義の様子


授業を受ける子どもたちも真剣

授業を受ける子どもたちも真剣


■地域の協力があるから実現する

そもそも、「出前授業」が始まったのは今から11年前の1999年。宮崎県延岡市にて活動がスタートしました。旭化成と延岡市などの教育委員会との懇談会の中で、「総合学習の時間」の有効活用の一つとして、“地域の教育力”を学校の中で活かすことはできないかとのことから検討が始まりました。11年も続き、今ではすっかり定着した出前授業ですが、軌道に乗せるまでには、大変な苦労があったといいます。教育関係者と何度も意見交換会を行ない、従来の学校教育とは異なる企業の技術者にしかできない授業を模索しました。
 その後、他の地区でも出前授業を展開することになりましたが、どの地域においてもその実現には、学校や教育委員会などの理解と協力が大きな鍵となっています。

「地域に貢献できる活動をしたい。スタートした頃、このような思いが根底にありました」(高見澤氏)

 旭化成の発祥の地である延岡。主要製造拠点として、たくさんの従業員とその家族が在住しています。また、取引先や関係企業も多く、地域全体が旭化成と深く関わっています。自分の子どもやその友だち、家族ぐるみでの付き合いなどから地域一体となって子どもたちを教育していこうとの思いが生まれ、それが学校や教育関係者にも伝わりやすかったものとの思われます。
 出前授業で講師を務めるのは旭化成の開発部長や工場長など、普段は業務に追われる人たちが、子どもたちにわかりやすい授業となるようそれぞれに工夫をし講義を行っています。このことからも、旭化成が地域貢献に積極的に取り組んでいる姿勢がうかがえます。

一人ひとりに丁寧に指導します

一人ひとりに丁寧に指導します


旭化成 CSR室 室長 高見澤 正氏

旭化成 CSR室 室長 高見澤 正氏


「今後は、さらに活動を広げていきたいですね」
 高見澤室長の言葉を裏付けるかのように、今では延岡市にとどまらず日向市や、倉敷、富士、東京地区などでも授業が展開されています。また、延岡地域では、旭化成の声がけによって地元の他企業も参加するようになり授業内容も多様になりました。出前授業を通じて地元企業の業務内容や技術等について一層理解を深めてもらう。企業と地域との「共生」、このような輪が旭化成のまわりで広がりつつあります。

(取材・文 江口陽子)