愛鳥活動を通して学ぶ「いきもの」の命

2009/04/20

 東京都の南に位置する多摩市。街には公園が整備され、池の横には木々が生い茂っています。この恵まれた自然環境を利用して、日々活動しているのが東京都多摩市立南豊ヶ丘小学校です。
「心やさしい生徒が多い。これが我が校の自慢です」と校長の川村康昭先生は胸を張ります。子どもたちの思いやりは、どこから生まれるのでしょうか。南豊ヶ丘小の学習の特徴を探ってみました。

「いじめですか? 私たちの学校にはありません」
 校長自ら、いじめがないことを宣言する南豊ヶ丘小。もちろん、いじめを定義づけることは難しく、どの学校にも「いじめの芽」のようなものは時折出てくることはあるでしょう。しかし、南豊ヶ丘小では、早期発見、早期対応で、本格的ないじめに発展することを防いでいるといいます。
 南豊ヶ丘小がもっとも力を入れている学習の一つは愛鳥活動です。「いじめのない、優しい心」と「愛鳥活動」。両者は無関係ではなさそうです。そこで、この二つの関連性に着目してみました。
 南豊ヶ丘小は2001年に愛鳥活動を開始し、今年度で9年目になりました。子どもたちは鳥たちのために巣箱やえさ台を手作りで用意し、訪れる鳥たちを観察します。2002年度には東京都の愛鳥モデル校に指定されました。2008年には、「全国野生生物保護実績発表大会」で林野庁長官賞を受けました。
 今は、全員参加の積極的な取り組みが展開されている南豊ヶ丘小の愛鳥活動ですが、始まったばかりの頃は、地元の東京都の鳥獣保護員の方のお話を聞くといった、こぢんまりとした内容でした。愛鳥モデル校としての看板を背負ったものの、しっかりとした土台作りができていない。校長の川村先生をはじめ、愛鳥活動のスタッフは取り組みを充実させる必要性を感じていました。そこで、「ポスターコンクール」や「巣箱コンクール」の参加など、児童が全員で参加できるコンクールへの応募を始めました。


生まれたばかりのヒナ
生まれたばかりのヒナ


手作りの巣箱
手作りの巣箱


■愛鳥活動における、もう一つの学習目的

 巣箱づくりは鳥を身近に感じるいい機会になります。作るうえでのノウハウがあり、木に箱をくくりつけただけでは、鳥は巣箱に入ってくれません。巣箱の穴にも、工夫が必要です。たとえば、穴が大きすぎると、より体の大きな鳥が侵入して攻撃を受けることにもなります。かといって、小さすぎたら入れません。子どもたちは、工夫を凝らして、巣箱作りに励みます。
 毎年、初夏に巣立ちの時が来ます。子どもたちは、ドキドキ。自分たちが作った箱に鳥が巣を作ってくれたかどうか、そっと扉を開けます。
「卵があった」
「ヒナがいるよ」
 子どもたちの発見の声が響きます。時には、巣ではなく、ゴキブリがいたことも。何がいても、大騒ぎ。今年度は10箱の巣箱に野鳥が巣を作っていました。

「愛鳥活動は子どもたちが身近に命を感じる機会になっています」(川村校長先生)
 実は、南豊ヶ丘小の活動は珍しい鳥を見つける、鳥が好きといったことだけではありません。その根底には「命の大切さ」を子どもたちが感じ取ることに教育の目的があります。
「巣箱の穴で羽を傷めないように、巣箱に一時間もヤスリがけをする子どももいます」
 このように語るのは副校長の二階堂すみ子先生です。二階堂先生は子どもたちに対し、いつでも温かいまなざしを注ぐお母さんのような存在です。細かい目配りをし、ときには子どもたちと一緒になって喜び、活動を支えています。校長、副校長、そして先生たちに支えられ、愛鳥活動を通して、地球は人間だけのものではないことを子どもたちは感じるでしょう。そして、動物との接触を通して、他者への思いやりが生まれてきます。

 活動の一つに「バンディング」というものがあります。その中で、子どもたちは両手で鳥を包み、その体温を直接感じる経験をします。鳥の温かみが子どもの掌に伝わる瞬間、掌の中にある鳥が「生きている」ことを子どもは感じ取ります。命が消えてしまうと、この温かみも失せていく。言葉だけでは伝わらない、命の大切さが子どもの心にしみていきます。

「私たちの学校では、友だちにやさしい言葉をかけられるような児童の育成に重点を置いています」(川村校長先生)
 南豊ヶ丘小の教育目標の一番に掲げられた項目は「思いやりのある子」です。まさに、愛鳥活動がその一助になっていることは間違いありません。


愛鳥活動の拠点、愛鳥ルームにはスコープが常設
愛鳥活動の拠点、愛鳥ルームにはスコープが常設


鳥の観察記録
鳥の観察記録


川村康昭校長先生、二階堂すみ子副校長先生
川村康昭校長先生、二階堂すみ子副校長先生


 そしてもう一つ、二階堂副校長は子どもたちが南豊ヶ丘小に対して、誇りを持っていることも大きな学習の成果だといいます。子どもたちが「自分たちは鳥について詳しい学校の生徒であること」を他の人たちに自慢する場面がよくあるといいます。全校児童は約100名。東京都の中では決して大きな学校ではありませんが、堂々と胸を張って、自分たちの学校を自慢することは子どもたちの自信の表れだといえます。

 毎年、子どもたちだけのバードウォッチングのほか、有志で開催されるものがあります。こちらは、子どもたちに加えて、保護者も参加します。学校、児童、保護者。この三者、みんなが積極的に参加していることが、活発な取り組みになっている一因です。
 その一方で、このような活動には、鳥に関する専門知識のある人が欠かせません。鳥の名前や生態、巣箱やえさ台づくりのノウハウ、これらを子どもたちに教えてくれる先生のような存在がなければ、愛鳥活動は充実したものにはなりません。その部分を担うのは地元の鳥獣保護員の方です。
「愛鳥活動は保護者や地域住民の方のご協力があり、ここまで来たといえます」(川村校長)
 子どもたちの思いやりは、保護者や地域住民の方、先生方の優しい気持ちによって育まれたともいえます。

 南豊ヶ丘小にいじめがないのは、先生方の目配り、学校の規模などさまざまな要因が影響しているといえます。人の心は目で見えませんが、愛鳥活動を通して育まれた子どもたちの「思いやり」が他者との関係をよいものにしていることは間違いないといえます。

(取材・文 江口 陽子)


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