茂木健一郎氏によるスペシャル・トーク
『ひらめきをサイエンスする』
~科学の原動力“ひらめき”を生み出すには?〜

2009/06/25

父の日21日の日曜日、朝から降り出した大雨にも関わらずソニー本社(東京・港区)のイベントホールはたくさんの親子連れで賑わいました。今年はソニー株式会社にとって社会貢献活動50周年の年、子どもの科学への興味を高める商品開発や科学教室の開催など、さまざまな企画やワークショップが順次展開されています。その一環として、今日は脳科学者であり、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャーでもある茂木健一郎さんのスペシャル・トーク『ひらめきをサイエンスする』の講演、および「ペットボトルと牛乳パックでつくるヘッドホン」のデモンストレーション、子どもたちと茂木さんのインタラクティブトーク(質疑応答)が開かれました。


スペシャル・トーク会場


「ひらめきがすべてです!」―脳は毎日ひらめいている、という茂木さんの力強い言葉ではじまったスペシャル・トークは、茂木さんのアグレッシブな手振り・身振りを交え、心と脳の関連、感情の浮き沈みと脳の進化について次から次へと楽しい話が展開し、本当にあっという間に時間が過ぎていきました。

昆虫採集は感情のジェットコースター
子どもの頃、森で虫を追いかけている最中に様々な光景に出くわし、驚いたり感動したりした経験はありませんか?捕まえようとした虫がゴキブリで「ギョッ」としたり、鮮やかな羽を持つ蝶を見つけて「ウットリ」したり、長時間歩いた後木陰をみつけ、一息ついて「ホッ」としたり。そうした感情の変化は脳を刺激し、進化させます。また、虫は生きものですから思い通りには見つかりません。辛抱強く観察したり、「カマキリは何を食べているのだろう?」と疑問を持ったりすることは、まさに科学のはじまりであり、他人の心を思いやる心にも似ているといいます。都会の子どもは森や林に出かけるのも一苦労だと思いますが、是非夏休みには虫と対峙して様々な感情を発見して欲しいですね。

強化学習のメカニズム
「ドーパミン」という言葉を皆さんも一度は聞いたことがあると思います。“脳内報酬物質”と訳されていましたが、行動を学習する動機となる因子として考えられ、主に人が快感を覚えたときに分泌されます。このドーパミンを操りながら、自分のレベルに合わせて脳にプレッシャーを与えることが勉強を習慣化するコツだそうです。茂木さんはこの勉強法を中学生の時に習得し、全力で乗り越えられるギリギリの目標を自ら設定し、挑戦⇒達成⇒ドーパミンの放出を繰り返し、どんどん脳を鍛えていったそうです。自分のレベルを人と比較ばかりしていては、このドーパミン体験はなかなか得られないかもしれませんね。

遊びに大切なのは「手加減」
草野球で人数が足りなかったり、トランプ遊びで小さな子が一緒だったりしたことで、やり方を工夫した思い出はありませんか?本物の遊びでは、全員が楽しめるように、ゲームが一番面白くなるように、現在進行形でどんどんルールが変わっていきます。そうして相手の力を慮ったり、「手加減」を学ぶことは、遊びのとても重要な要素だと茂木さんは言います。コンピューターゲームも同じこと。一定のルールに従ってやり続けるのではなく、障害をクリアするために自分なりの抜け道を探したり、対戦相手のレベルに合わせたり、または自分でゲームを作り変えたり。こうした工夫は科学用語で「メタ認知」と呼ばれ、メタ認知のないところに脳の発達はなく、相手のない遊びで思いやる心は生まれません。


茂木健一郎氏


神経細胞が一斉に活動する「Aha体験」
最後に、“隠し絵”と“間違い探し”の問題がスクリーンに映し出されると、それまで聞き入っていた観客は一斉に自分の頭で考え始めました。「あの絵には何が隠されているのだろう」、「あの2つの写真の違いは何だ?」と。そして答えを発見した瞬間、ワッと歓声やどよめきが起こりました。これが、茂木さんの言う「Aha体験」です。何かが分かった、脳に閃光が走った瞬間、神経細胞が0.1秒活動します。これが脳にとってのごほうび、活性の原動力になるそうです。1日1回、「Aha体験」を目指したいものです。

エネルギッシュな茂木さんトークの後、音が伝わる仕組みが分かるワークショップのデモンストレーションがありました。3名の社員ナビゲーターが登場、ペットボトルと牛乳パックというどこの家庭にもある身近な素材であっという間にヘッドホンが出来上がりました。詳しいつくり方は、7月中にソニーのホームページでも紹介されます。詳しくはhttp://www.sony.co.jp/ssp/をご覧ください。

デモンストレーションの様子


会場もだいぶ盛り上がってきた頃、来場した子どもたちの中から選ばれた茂木さんへの質疑応答時間が設けられました。「忘れ物を取りにいって、何を取りにいったか忘れてしまう時の脳の状態は?」、「サッカーの時、瞬時の判断が出来るようになるにはどうすれば良いか?」「動物は夢を見る?」「心はどこにある?」「マンガで人がひらめくと、なぜ電球の絵が出てくるの?」などなど、子どもたちのあらゆる角度からの質問に茂木さんはとても分かりやすく答えてくれました。これだけ情報リソースが溢れている世界、これからの子どもたちは世界的な視野を持つことが求められて来ます。そのためには英語を学習すること、バイリンガルな脳になるための訓練も欠かせないということも答えの中に付け加えられていました。


スペシャル・トークの様子


アインシュタインは5歳の時に方位磁石がいつも同じ方向を向いていることを不思議に思い、後に科学の世界に入りました。今日、たった2時間の出来事でしたが、子どもの脳は一度経験したことを大切に覚え育てる能力があります。一過性の出来事をその後の未来の夢に繋げる可能性は無限大にあるのです。
また、現代は検索エンジンGoogleの創始者がったった1本の論文から世界的な会社を興したことに象徴されるように、ひらめきを大事にし、諦めずに挑戦すれば努力した分だけ自分自身も豊かになるチャンスがある、素晴らしい世界です。そのために科学の知識は欠かせません。なによりも「ひらめき」を大事にすること、そして他人を思いやる心や対話することから科学の心が育まれることを忘れないで欲しいという茂木さんの言葉で、今日の「ひらめき」授業は終了しました。