学校問題解決のさまざまなあり方~東京都 学校問題解決サポート事業

2009/07/28

 かつて、教職に就く者は「聖職者」と呼ばれ、先生を敬うのは当然のことだとする時代がありました。当時は、先生への批判などはもってのほか、教職者が絶対視されることに疑問の余地はありませんでした。しかし、良し悪しは別として、近年は保護者や地域住民の価値観が多様化し、ときには理不尽な意見や要望が学校に対して繰り返しぶつけられる事態も見受けられます。

 具体的にいうと、要望や意見の中には、いじめに関する教師がとった対応への批判、学校の設備に対する予算では対応しきれないレベルでの改善要求、また、騒音に関する近隣住民の執拗な苦情などがあります。また、保護者自身の離婚調停に関し、教師に対して第三者として書類にサインを頼むといった、プライベートな要求も珍しくありません。学校によっては、その対応について時間的・精神的に、もはや限界だと感じる事例も増加しており、多くの地域で問題になっていました。

 その中、学校などに対して支援策を検討する自治体が増え、学校問題を解決するためのサポートセンターが開設されるようになりました。東京都では、「学校問題解決センター」が開設され、5月1日から相談業務が開始されています。開設から二ヵ月半、すでに60件を超える相談が寄せられ、そのうちおよそ8割以上が解決しているといいます。


■モンスターペアレンツを批判するだけでいいのか

 このセンターの特徴は、クレームをつける保護者から学校を守ることだけを第一の目的にしていない点にあります。池口洋一郎氏(東京都教育委員会 学校問題解決サポート事業 統括指導主事)は、センターは子どもにとって何が大切なのかを第一に考え、公平中立な立場を保つことを方針に掲げていると説明します。

「モンスターペアレンツという言葉が流行っていますが、このような言葉で保護者を拒むと、本来なら学校が耳を傾けなければならない要望や苦情に対して、前向きに向き合う姿勢が損なわれてしまいます」

 池口氏がこのように考えるのには理由があります。2008年、東京都の「公立学校における学校問題検討委員会」は、都立高校や全国市町村教育委員会(公立幼、小、中学校)などを対象に実態を調査しました。その結果、学校が手におえないような、解決困難なケースは326件、調査した学校数の9%発生していたことが判明しました。
 不当な要求や対応を求める保護者がいるのは事実ですが、それは今回の調査では9%という一部にすぎず、大半の保護者の意見や要求は理不尽とは言いがたいものである。学校問題は、話し合い、互いの意見を聞いて対応していけば、何とか解決に至るものが大半を占めている。このような事実が明らかになりました。また、これまで、問題がこじれた案件の過程を追っていくと、初期段階の学校の対応に問題がある場合もあり、結果として要求が理不尽に発展していくことも少なくないといいます。

「問題解決のキーワードは『聴く』ことです。要望や苦情を寄せた方に対して傾聴し、共感することで大方の問題は解決します」(池口氏)

 たとえば、隣家の住民から、学校の樹木の枝が突き出て迷惑だという苦情が寄せられたときは、学校は枝を切って報告しておしまいとするのでは不十分です。まず苦情を寄せた人の話をよく聴いた上で、枝の状況を当事者と一緒に確認することが大切。現場に行き目で確かめることで相手の困った状況に共感します。そして、苦情を寄せた人が「わかってもらった」という安心感を抱くことが解決のポイントだといいます。
 決して、悪者を定めて裁くのではなく、相手の「困った」を共感する。ここに解決の糸口があります。


■学校にも企業研修のようなものが必要


相談の流れ
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 学校問題解決センターが定める「相談の流れ」は図の通りです。学校問題解決サポートセンターが対象としている相談は、保護者や地域住民は学校、さらには地域の教育委員会ともよく話し合っていることが前提になります。まずはよく話し合うことが大切。それでも解決できなかったものに対して、学校問題解決センターは相談を受けるようになっています。
 センターで相談に対応するのは、学校長経験者など、これまでさまざまな事例に立会い解決してきた人たちです。現在、寄せられた多くの相談が解決の方向にあるのは、優れた人材によるところも大きくあります。
 しかし、案件によっては、専門家などの助言が必要なこともゼロではありません。その場合は、弁護士、精神科医、警察OBなどの専門家がアドバイスを加えます。現在、助言が必要なレベルの案件は5、6件。中には、アドバイスに従い実行に移し、解決に向かっているケースもあるといいます。

 学校問題解決サポートセンターでは、相談・助言のほか、学校側の対応に関する研修も予定しています。こじれた問題の中には、初期段階での学校側の受け答えが違っていたら、スムーズに解決したであろう事項もあります。もちろん、教師の中にはベテランが多く、対応が不適切なケースは多数あるわけではありません。しかし、もう少し、学校の先生にも対応について学ぶ機会があってもいいのではないか、という考えにもとづいています。

 学校問題解決サポートセンターは学校で解決困難な問題に対して、公平・中立の立場で解決策を提案する役割を担っています。その傍ら、実は問題の多くは話し合うことで解決し、その話し合いの道筋をまっすぐ進めるにはいくつかのノウハウがある。このことを関係者に示すという、大きな役割を果たしているともいえます。

(取材・文 江口陽子)