環境へ配慮した「コミュニティサイクル」という
画期的なシステム

2009/10/21

 低炭素社会を構築していく上で、最近はさまざまな実験が進められるようになりました。中でも、地球温暖化対策の一つとして、自転車の利用を促進する動きを目にする機会が増えています。
「移動の際には、自転車や公共交通機関の使用を心がけましょう」
 このような声が強まる一方で、自転車に乗ろうとする意思はあるが、乗りたいときに手元に自転車がない。結局、タクシーに乗ってしまったという経験をお持ちの方もいるでしょう。

「公道に設置される貸出拠点(エコポート)」  「公道に設置される貸出拠点(エコポート)」
公道に設置される貸出拠点(エコポート)

 JTB首都圏が開始した「コミュニティサイクル」のサービスは、誰でもが貸出拠点に行けば、そこにある自転車を低料金で自由に利用できるというシステムです。貸出拠点は現在のところ、東京都の「丸の内仲通り」(千代田区大手町、丸の内、有楽町地区)に5か所設置されています。利用者は貸出拠点で自転車を借り、走行後貸出拠点に返します。便利なことに、返却するときの拠点は、かならずしも貸出したときと同じ拠点でなくてもいいとなっています。たとえば、有楽町地区の貸出拠点で自転車を借り、大手町の貸出拠点に返すこともできるのです。出発地点から目的地まで、本来ならタクシーで移動していたが自転車に変えることで、CO2削減と自身の健康の両方に役に立つというメリットが期待できる。これが「コミュニティサイクル」の概念です。

■次々と出てくる課題の山

 いくらコンセプトが素晴らしくても、現実に作り上げるとなると、思いもよらなかった問題が生じるものです。これまで、自転車を貸し出すシステムといえば、自転車置き場は私有地に設置されていました。ところが、JTB首都圏の「コミュニティサイクル」のように誰でもが自由に使えるようにするためには、貸出拠点を主に公道に設置することが望ましいのです。

「公道に貸出拠点を設置するとなると、警察や自治体の許可をとならければなりません」(JTB首都圏 高知尾さん)
 許可が下りるかどうかは、法にのっとっているかどうかが大きなカギとなります。とはいえ、これまでに公道を利用したコミュニティサイクルというものは存在しませんでした。もちろん、法律のほうも、自転車の貸出拠点ができることは想定しないでつくられています。コミュニティサイクルの貸出拠点は、現行の法律では想定外、宇宙人のような存在でした。どのように扱うべきなのか。コミュニティサイクルは「街灯」でもなければ、「電柱」でもない。郵便ポストや公衆電話でもありません。貸出拠点は一体「何」なのかが決まらなければ許可したくてもしようがありません。

 結局、このコミュニティサイクルは不特定多数の人が自転車を停めるということで、「駐輪所」として扱われることになりました。これで法律の問題も解決し、後は許可に向かうだけのようにも見えました。しかし、問題が一つ解決したのも束の間。次は、駐輪所だからこそ発生した課題が高知尾さんたちに突きつけられました。

 それは、コミュニティサイクルを駐輪所として扱うなら、柵を3方向に設置しなければ許可が下りないというものでした。しかし、貸出拠点に駐輪場のような柵を設置してしまうと、道路を走る車の視界を悪くしてしまいます。それがもとで、事故でも発生したら大変なことになります。
 このまま、コミュニティサイクルは暗礁に乗り上げ、実現できずに終わってしまうのでしょうか。
「どうしたらいいのか。問題をクリアするのが大変でした」
 高知尾さんたちが思いついた解決策は、背の低い網の柵を設けることでした。背が低く網目の柵なら、自動車を運転する人の視界の妨げにもなりにくく、法律の要件も満たします。このようにして、ほかにも、たくさん課題と問題解決を繰り返し、やっと許可が下りました。

貸出拠点を囲む背が低く網目の柵
貸出拠点を囲む背が低く網目の柵

右側の緑の部分にカードをかざす
右側の緑の部分にカードをかざす

■盗難、破損を防ぐのには何が必要か

 コミュニティサイクルには、警察や自治体の許可を取ることのほかに、実はもう一つクリアしなければならない課題が存在していました。それは、盗難や破損、料金支払時のトラブルをどのようにして防止するかといったことです。この問題も着実に解決に向かって進んでいました。
 今回の実験では、初回登録料が1000円。1回ごとの利用料が最初の30分は無料、30分以降10分ごとに100円、3時間以降は5分ごとに100円がかかります。
「海外ではクレジットカードを貸出拠点で登録しているところもあるようですが、こちらのコミュニティサイクルは貸出拠点では事前に登録したFeliCa(フェリカ)カードによる認証だけです。貸出拠点での認証はFeliCaが搭載されているカードや携帯電話などによってできるようにしました」
 FeliCaは、ソニーが開発した非接触ICカード技術方式。すでに、JRなどの交通機関の乗車券(カード)などに搭載されています。
 高知尾さんたちは安全で誰もが利用でき、簡単な操作で済むような方法を採用したいと願っていました。クレジットカードを現場で登録すると、悪意のある第三者によってカードの情報が不正に読みとられてしまう、といった事故が想定されます。そこで、FeliCaカードが候補にあがり採用されることになりました。
 また、利用者はクレジットカードとメールアドレスを事前に登録するような仕組みにしました。これは、スタッフと利用者が最低一回、対面で顔を合わすことが故意的な破損を防ぐのではないか、という高知尾さんたちの考えに基づいたものです。コミュニティサイクルがオープンしてから、約2週間が経ちますが、今のところ問題になるような意図的な破損はないといいます。

 そのほか、紛失を防ぐため自転車一台ずつICチップを搭載する、部品を最小限にし、部品を盗まれても損害が小さくて済むようにするといったさまざまな対策が施されました。利用者の安心と安全の確保。利便性の向上。そして、環境への配慮。高知尾さんたちはたくさんのアイデアを出し、盛り込んでいきました。
 オープンしたのは2009年10月1日。その後、10月中旬で登録者数は300名を越えています。
「予想以上にたくさんの反応をいただきました」
 高知尾さんのもとへは、日々「私の町にも設置してください」「新しい試みを応援しています」といった声が届くといいます。ときには、問い合わせの電話がひっきりなしに鳴り続けた日もあったようです。
「今後はさらに範囲を広げていきたい」
 今回の実験は11月いっぱいで終了します。その後、JTB首都圏では実験結果を踏まえ、日本各地への展開などを含めて、将来への可能性を探っていくといいます。日本全国に環境保全型のコミュニティサイクルが根付くのか。見守っていきたいところです。
(取材・文 江口 陽子)

JTBスタッフ
左:JTB首都圏 首都圏交流事業推進室 グループリーダー
高知尾昌行さん
右:株式会社 ジェイティービー 広報担当部長
永瀬秀樹さん