南極と日本、1万4000kmをつなぐ教室

2009/10/30

 ITの発達は学習のスタイルにも変化をもたらしました。学校では、インターネットを介して、テレビ会議システムを取り入れた授業は珍しいものではなくなりました。離れた二地点を結び、互いに映像と音声を送り学ぶ。このようなスタイルを取り入れた教室を定期的に開催している人たちがいます。しかも、地球上で実施される教室のうち、それはもっとも離れた地点から中継しています。その相手先というのは、地球の南端である南極。日本から1万4000km離れた厳寒の地に、その日、南極の昭和基地と日本の小学校が衛星回線によって結ばれました。
 学校と基地の両者がリアルタイムで交信する「南極教室」。この教室は、国立極地研究所プロデュースのもと、昭和基地の隊員と小学校が共同で実施する教室です。学校側の画面には、昭和基地で活動する南極地域観測隊隊員二人の姿が映し出されます。子どもたちは体育館の床に座り、画面を見つめる。この姿は、カメラを介して、昭和基地のモニターに映し出されました。

 隊員の「こんにちは」のあいさつに子どもたちは大きな声で「こんにちはぁぁぁ」と返します。南極教室の始まりです。隊員は自己紹介しました。
 南極教室をサポートしている国立極地研究所の熊谷宏靖さんは教室の目的について次のように語ります。

「南極観測活動について、これから次の世代を担う子どもたちに紹介して、より認知していただきたいというのがこの南極教室の目的の一つです。ただ、それだけでなく、南極を通じて、地球全体について考えてもらえるように、そんなきっかけになればいいと願い、活動を展開しています」

 熊谷さんのいる国立極地研究所というのは、極地に関する科学の総合研究と極地観測の推進を目的に1973年に設置されました。主となる活動は観測を基盤とした「研究活動」。日本における極域科学研究の中核拠点として、観測を基盤に、極域に関する総合研究を進めています。

■やはりペンギンとオーロラに根強い人気

 自己紹介が終わると、昭和基地の様子が映し出されました。食堂や食物が貯蔵されている巨大な冷蔵室。テレビが置いてあるサロン。そして、病院まである、と設備が紹介されました。食事はプロの調理人二人が担当していることや、隊員には、お医者さんや車に関するエンジニアなどまで、いろんな人がいることが紹介されました。子どもたちに何を伝えるのか。教室の内容は昭和基地の隊員たちに委ねられています。

「南極では吐く息は白くなるでしょうか」
 建物や設備の紹介が終わったら、隊員から小学校のみんなにクイズが投げかけられました。
「白くなると思う人」
 先生の掛け声とともに、子どもたちの何人かが手をあげました。
「正解は白くならないです」
隊員から正解が告げられると、正解した子が大きな声をあげて喜びます。なぜ白くならないのか。隊員の説明に子どもたちも興味しんしんです。吐いた息は空気中のチリ、ホコリがなければ白くならないと隊員は話します。それほどまでに、南極の空気にはホコリが少なことが子どもたちに説明されました。
 とくに盛り上がったのが、ペンギンやオーロラの動画です。「ペンギンかわいい」「オーロラきれい」などと、一人ひとりの口から感想が漏れます。

ペンギンの愛くるしい姿に会場から歓声が  オーロラの動画は一番の人気
ペンギンの愛くるしい姿に会場から歓声が       オーロラの動画は一番の人気

「私たちは南極の観測をしていますから、この教室では観測のことを中心に子どもたちに伝えたいという気持ちは正直あります。ただし、ペンギンやオーロラに子どもたちの興味が集まってもいいと思います。この南極教室を通して、何人かの子どもが興味を抱くきっかけとなり、のちに調べてくれればいいと思っています」(熊谷さん)
 熊谷さんは、南極について長々と理論的な話をしても、子どもたちには難しいという印象しか植え付けないだろうと考えています。

■苦労点は以外にも回線にある

 この南極教室を実施するうえで、熊谷さんがもっとも苦労することは回線に関することだといいます。南極教室はインターネットを介して、音声や画像が交信されます。ただし、インターネットといってもたとえばこの「未来図書室」を閲覧するときのように、ブラウザを立ち上げてクリックすればOK、というものではありません。南極の映像や音声を学校の画面に映すのは、一般のサイトを映すのとは異なった交信手順を使います。したがって、単にインターネットが使えるだけでは交信ができないケースも少なくありません。熊谷さんは、相手先の学校の設備で、教室がスムーズに行くために何をしなければならないかを毎回調べます。場合によっては、学校側の設定を変える、新しい回線を引くために工事するといった対処が必要になってきます。
 本番前一週間、国内で接続試験をして、前日に南極と交信試験をし、最後本番に向かいます。あとは、当日台風などで、アンテナ向きが変わらないことを祈るのみ。さまざまな、準備を経て南極教室は開催されています。
 子どもたちの素直な驚きの声に、昭和基地の隊員の方たちも嬉しそうな表情を見せます。
 熊谷さんはより多くの子どもに南極について知ってもらいたいという願いのもと、さらに今後も南極教室の活動を進めていくといいます。とくに、来年は学校の先生が昭和基地に行き、南極から日本に向けて授業するという初めての試みが行われます。新しい、南極の授業が展開されます。

誕生日会のメニューはいつもより豪華
誕生日会のメニューはいつもより豪華


熊谷 宏靖さん
国立極地研究所
第51次日本南極地域観測隊
夏隊
熊谷 宏靖さん
(11月、熊谷さんも南極に向かいます)


(取材・文 江口陽子)