生徒の多様性を認める環境教育
~栃木県立宇都宮工業高等学校~

2009/11/19

 企業や学校がISO14001(*)を取得することは珍しくありません。2002年、日本で初めて国公立の高等学校がISO14001を取得しました。今から7年前のことです。当時は、今ほど環境問題に対する意識は高くない時代。にもかかわらず、どこよりも早く環境への問題意識を持って、ISO取得に乗り出したのが今回紹介する栃木県立宇都宮工業高等学校です。
 現在、具体的な活動としては、ごみ削減などの3R(リユース・リデュース・リサイクル)活動や炭による河川浄化学習といった活動が盛んに進められています。ただし、このような取り組みは企業でも推進されていることで、今の時代珍しいことではありません。宇都宮工業高校では、高等学校特有のしかも工業高校ならではの取り組みが展開されています。
 その工業高校特有の取り組みというのは、「グリーン・エンジニア」の育成。これは「人に優しく地球環境に優しいものづくりができる技術者」をグリーン・エンジニアと呼び、環境問題に対する正しい判断力と行動力を備えた心豊かな工業技術者を育てることを指します。宇都宮工業高校独自の教育システムの中に、育成プログラムが組み込まれており、毎年たくさんの生徒たちがグリーン・エンジニアになる資質を身につけて卒業していきます。

■グリーン・エンジニアがなぜ必要なのか

 宇都宮工業高校の進路はおよそ4割が進学、6割が就職しますが、半分は大手メーカーなどの企業にエンジニアとして採用されます。就職した後、環境への意識が高いことは就職先の企業に順応しやすくなる。このような考えのもと、グリーン・エンジニアの育成が必要だという考えが浮上しました。
「総合的・実践的な技術を駆使したものづくりができ、地域・国際貢献ができるグリーン・エンジニアの育成を目指す学校づくり」
 これがテーマとして定められ、先生と生徒が取り組みを進めました。ここで、キーワードとなるのが「貢献」です。自分たちがエンジニアとして何ができるのか。何をしたらいいのか。「貢献したい」という願いが活動の根底にあります。
 具体的な学習内容の一つには、被災地の仮設住宅の設計があります。宇都宮工業高校は土木、建築、電気、インテリアなど、多数の学科を抱えています。これまで、この学校ではそれぞれの学科ごとに個別に学習を進めてきました。ところが、被災地の仮設住宅は土木、建築、電気などさまざまな学科の知識が集約されています。そこで、全科を横断的に、技術を合わせてみんなで住宅を作ろうとなりました。2004年、新潟中越地震があり、生徒たちは被災地を観察して、被災地に適した住宅とはどのようなものか、アイデアを出し合い設計しました。
 仮設住宅のほかの活動では、地域に貢献するため、宇都宮市の小中学校の施設の整備や、燃料電池の研究や国際交流などを実施しました。

地元を流れる釜川に炭を浸して水質浄化しています
地元を流れる釜川に炭を浸して水質浄化しています

地域リペアとして、柵にペンキを塗っています。
地域リペアとして、柵にペンキを塗っています。

■3年間でグリーン・エンジニアは完成されない

 卒業後の生徒は、進学する子、就職する子、それぞれの道に進みます。その進んだ先の場所において、高校の時培った精神が芽生え、やがて環境への意識が高い人に育ってもらえばいい。宇都宮工業高校で環境教育の推進に努めてきた村上英二先生はこのように考えています。
 3年間で、何人のグリーン・エンジニアを育成したか、数字を出すことは村上先生にとっては二の次のことのようです。未完成でもいいから、生きていく中で成長し、やがて環境への意識が高まること。これが最優先だというのが宇都宮工業高校の考えです。
 くわえて、全校生徒約1000人、全員をグリーン・エンジニアにしようとは思っていない。このようにも村上先生は言います。生徒の中には、さまざまな子どもがいます。全ての子どもが同じように優等生である必要はない。中には、環境には興味を示さずにいる生徒もいる。そのような子どもを落ちこぼれとして排除することなく、同じ宇都宮工業高校の生徒として扱う。ここに宇都宮工業高校の基本的な方針があります。
「それでも、少しずつ変わっていく生徒もいます」(村上先生)
 最初は通路にゴミが落ちていても、「これは自分が捨てたゴミではないから関係ない」と素通りしていた生徒も、他人が落としたゴミを黙って拾う生徒に影響され、次第にゴミを無視しなくなるといいます。
「少しずつ、全体として環境への意識が高めればいい。強制的に環境活動に向かわせても、結局は長続きしません」
 現在、宇都宮工業高校のISO事務局を務めている石塚先生は生徒たちが自主的に活動に取り組むことを意識している一人です。力で抑えつければ、一時的に「参加者」といった数字はよくなるかもしれませんが、結局はどこかで減速することになります。
 競争そのものさえもゲームのように楽しみ、みんなで切磋琢磨する。このような手法も一つとして間違いではありません。ただ、宇都宮工業高校が推進するように、争うのではなく、まわりのみんなそれぞれ考えや価値観が異なる子どもたちが共に学校の中に存在し、それぞれを認め合う。そうすることで、全体の意識が少しずつ高くなっていく。このような考えが宇都宮工業高校の進める環境への取り組みの根底にあります。それぞれの学校の取り組みは、学校の特徴によってさまざまな形があり、どれが正しいというものはありません。その中で、生徒一人ひとりを尊重していく。これが宇都宮工業高校の活動が生徒たちに広くいきわたる理由でもあります。

(取材・文 江口 陽子)

(*)ISO(国際標準化機構)14001は環境マネジメントシステム(EMS: Environmental Management Systems)の構築を要求した規格。取得には規格の要件を満足しなければならず、環境への負荷低減などの環境問題に関して積極的な取組みが必要。

ゴミの分別、計測 ゴミの分別、計測
左:ゴミの分別作業に励みます 右:ゴミを計量して削減量を把握

栃木県立宇都宮工業高等学校 校長 岡村悦夫
栃木県立宇都宮工業高等学校 校長 岡村悦夫