美しく豊かな森づくりを目指す活動
~アサヒビール「アサヒの森」~

2009/11/27

 広島県の北部に位置する庄原市と三次市。そこには赤松山、甲野村山といった山が季節ごとに豊かな表情をみせています。アサヒビールはこの地に、CSR活動の一つとして大小15ヵ所、「アサヒの森」という森を所有しています。
 アサヒビールはご存じ、ビールをはじめとする酒類メーカー。林業とは直接関係のない会社のようにもみえます。それなのに、なぜ、アサヒビールは森を守ろうとしているのでしょうか。

 ところで、私たちにとって森とは「あって当たり前」の存在。そのためか、意外とわかっているつもりでも、まだまだ知らないことがたくさんあります。今回は、森の働きを知り尽くしているアサヒビールの竹田義信さん(社会環境推進部長)に森のことをたくさん教えていただきました。森を理解すると、森への気持ちも変わってきます。そして、なぜ、アサヒビールが森を大切に維持しようとしているのか、わかるのではないでしょうか。

■事業を通して自然の恵みを感じていた

 山に行くと、ブナという木があります。この木は桐などとは違い水分が多く含まれているため、家具や柱の用途には適さないといわれています。人間にとって使い道のないブナの木。漢字では木へんに「無」と書くのですが、「無」の文字を付された理由はこの「使えなさ」から来ているといいます。
 利用価値が低いとされているブナの木ですが、私たちが知らないところで有益な働きをしていることをご存じでしょうか。ブナの木の生えている地面では、雨が降るとスポンジのように水がしみこんでいきます。まるで水がめのように、たくさんの水を根元に貯めることができるのです。しかも、森に住んでいるミミズや虫たちのおかげで、水にはたくさんの栄養分が含まれています。養分たっぷりの水はゆっくりと地下水から川へ、やがて海に流れていきます。
 私たちのまわりでは、日照りが続いても山の水が絶えず川に流れ出ていきます。それは森が地面に水を蓄えているおかげです。私たちがたくさんの水を利用できるという点でいえば、水を貯めてくれるブナの森は「使い道が無い」どころか優れた存在だったのです。

 アサヒビールの主製品であるビールは原材料に麦芽やホップ、水などの自然の恵みを利用しています。古くから、アサヒビールは原材料を通して、自然の恵みの大切さに触れてきました。貴重な森林が減少していくことは、豊かな自然が損なわれてしまい、やがては事業を継続することができなくなってしまいます。アサヒビールは森を守りながら、「森を守ることは本業を守ること」だと気づきます。そこで、アサヒビールは「アサヒの森」の活動を深めていきました。

列状間伐   スギの木
左:列状間伐(一定の間隔を空けて列状に伐採)を実施。   右:スギの木の人工森。沢に近いほうに植樹します。

■手間をかけると森はこたえる

 アサヒの森が意識していることは、天然林と人工林のバランス。スギやヒノキなどの人工林を植樹する一方で、天然林は自然のままの生態系を壊さないように保護しています。
 人工林では、蓄積したノウハウによって、木の植え方や手の入れ方など、しっかりと考えながら木を植え育てていきます。たとえば、杉は沢に近いほうに植え、ヒノキは山の中腹から上のほう、そして山の上に広葉樹を植えると落葉した葉が養分となって下に向かう。山には植え方の知恵やルールがあり、ここにもアサヒの森の70年近い歴史が引き継がれております。
 また、木は放っておいても育つように思われがちですが、子育てと同じように手をかけておかなければならない時期があります。育つ時期によって、下刈りや間伐など地道な手入れがあって、森は初めて健全な状態を保ち育っていくものなのです。
 林業では「間伐」という伐採がとても重要な事柄としてあります。森はほどよい間隔で木が立っているのが理想です。木が混みあうと光が下に入らないので、地面に草木が生えなくなる。そこへ豪雨がくると土砂が流れてしまうことになります。他方、葉っぱの間から光が入ると、下に草が生えるから保水の力がしっかりとできるようになります。そのため、土砂が流れ出ないため、そして適度に樹木の生育を促すためにも間引くための伐採が必要になります。これが間伐です。
 手間とお金をかけて森を守る。それには、ただならぬ覚悟と森への思いが込められています。ただし、企業である以上、お金や人手を無尽蔵にかけるわけにはいきません。
「活動の要素として、持続していくことは大切です。何か社会に貢献するとき、一度は実施することはできます。しかし、二度、三度と長く続けていくことはたやすいことではありません。活動する組織は自立していることが本来あるべき姿だと思います」
 たとえ、事業目標と切り離されているCSR活動だとしても、経済的にも自立し、継続させていくことが大切だと竹田さんは言います。アサヒの森では「間伐」などについて、効率と経済性を考慮して、計画通りに伐採しています。間伐については、経済性を高める「列状間伐」を採用し、作業の効率化やコスト削減を図っています。また、どの部分を間伐するか、GIS(地理情報システム)で林内内容を管理し、計画的に間伐を進めています。
 努力の甲斐もあり、最近では、徐々に黒字に転じる兆しがみえているといいます。
「もちろん、利益を上げることを第一としているわけではありません。まずは、森を守っていくこと。それが社会貢献であり、結果として事業の継続にもつながっていくという考えでおります」(竹田さん)
 最新の手法も取り入れ、コストダウンといった面での努力を図っている「アサヒの森」。根底には木や森、自然への愛情が流れていながらも、活動を維持していくための知恵が込められています。

(取材・文 江口 陽子)


竹田さん
アサヒビール 社会環境推進部長 竹田義信さん