地域の協力で学校は変われる
~北九州市立八児中学校「開かれた学校」をめざして~

2009/12/28

 昔と比べて希薄になってしまったものに、「地域と学校の関係」があります。かつて、地域の多くには「子どもたちは地域の宝」として、地域のみんなで育てるという風習がありました。植物や地域の文化について、子どもは大人とのふれあいを通じて、学んでいました。また、他人の子どもを自分の子どもと同じように育てるという風習があったので、「友人のお母さん」「近所のおじさん、おばさん」といった存在が、間違った行動をとった子どもたちを容赦なく叱り、これが子どもたちの道徳心を育て、生きていく上で必要な他者への思いやりを学ぶ機会となっていました。ところが、近年では、個々の住民と子どもたちの距離は離れ、互いが無関心であることによる弊害が指摘されるようになりました。地域住民による夜間パトロールもありますが、集団でたむろしている子どもたちがいても、恐ろしくて注意ができないといった現状があります。
「地域で子どもを育てる風土を作っていかないと。学校だけでは成り立たない」
 北九州市立八児中学校で校長を務める木村 豊先生は地域住民とともに、「開かれた学校づくり」に取り組んでいます。

 12月、八児中学校では保護者、地域、学校が一体となった「収穫祭」が開かれました。当日は、保護者・地域の方と生徒達が餅つきや豆腐、こんにゃく、ぶた汁づくりをしました。このみんなでこしらえた“ぶた汁”の食材のうち、豚肉以外は、全て校内の「ふれあい農園」で保護者、地域の方、生徒が一緒になって栽培したものです。大豆、ニンジン、ごぼう、里いも、ネギなどの野菜から豆腐やこんにゃくまで、全てが手づくり。これは八児中学校にとって初めてのことでした。
 食べ終わった後は、生徒達は民生委員と一緒に、校区内の一人暮らしの高齢者にお餅と「いつまでもお元気で!」というメッセージを付けたヒョウタンを配りました。この時の餅も、地域の方と生徒達が栽培したもち米からできたものでした。

ひょうたんには一つずつ心を込めてメッセージが書かれています
ひょうたんには一つずつ心を込めてメッセージが書かれています

ぶた汁用の手作りこんにゃく
ぶた汁用の手作りこんにゃく

■実現しようという思いが一つになった

 地域との関係を密にしたいと願う学校は少なくありません。とはいえ、地域との一体感を持つことは容易ではありません。生徒の負担が増えることに懸念を示す人もいるでしょうし、地域との距離が近くなることで教師自身が言動を監視されることにもなります。また、保護者や近隣住民から理不尽な要求が繰り返し出される機会が増える恐れも否定できません。中には仕事が増えることに嫌気を示す教師もいるでしょう。「開かれた学校づくり」を進めるにあたって、木村先生のまわりにも、このようなネガティブな意見が全くないわけではありませんでした。そこで、木村先生は一人ずつ、丁寧に説得を続け、少しずつ賛同者が増えていき、そして先の収穫祭を無事終えることができました。

「ヒョウタンの栽培は奥が深く、学ぶことがたくさんあります」
 木村先生は、物事には適した「時期」があり、ヒョウタン栽培はそれを知る格好の教材だといいます。たとえば、植える時期。適した時期を逃すと、あとからではきちんと育ちません。水や肥料は多すぎても少なすぎてもうまく育たない。これは子育ても同じで、親が子どもに手をかけるにも適した時期があり、愛情は多すぎても足りなくてもいけない。「ほどよい環境」が大切だという点が、ヒョウタンの栽培と子育てに共通します。木村先生は自らヒョウタン栽培を通じて感じたことを保護者や子ども、地域の人たちにも知ってもらいたかった。このような思いでヒョウタンづくりを取り入れたといいます。
 もち米の栽培では、JAの組合長が朝五時に起きて、草取りを毎日欠かしませんでした。このような小さな積み重ねが集まって、最初はバラバラだった地域、保護者、教師、生徒、みんなの心が一つになっていきました。

地域の人たちと一緒になってぶた汁作り
地域の人たちと一緒になってぶた汁作り

とうふも手づくり
とうふも手づくり

■地域との協力によって生徒が変わった

 子どもたちの健全な育成には地域の力が必要だといわれていますが、本当に効果はあるのかと穿った見方をする人もいるでしょう。
「取り組みを開始してから生徒たちは変わりました」
 木村先生が話すように、以前八児中学校はどちらかというと、荒れた部分が多少ありました。卒業生が学校内に入り込み、先生を呼び捨てで呼ぶこともしょっちゅう。校庭に乱入して野球部員のバットを取り上げ、バッティング遊びで部活の邪魔をすることも、また、以前は国旗掲揚のロープが焼かれたこともあったといいます。
 今、学校の農園の横には、ノボリ旗が立てられています。以前の八児中学校なら、旗を破かれることやいたずら書きを心配して、行事が終わったら、すぐにしまっていたことでしょう。しかし、今では、ノボリ旗は常時立てられています。一回だけ、旗をしまったことがありますが、それは台風18号襲来の前日のとき。それ以外は出したままですが、いたずらされることはありません。むしろ、この農園の片隅にあるミッキーマウスのベンチに座って「癒される」という生徒がたくさんいます。
 活動の中では、地域の年長者が生徒達に栽培のコツを伝授することもあります。このようなふれあいから、これまでお年寄りを「遠い存在」だと感じがちだった生徒が、高齢者をより身近に感じ、尊敬の念を抱くようになります。こうした活動を通して、生徒達の心はほぐれ、優しくなっていきました。

 木村先生が八児中学校の校長になったのは昨年のことでした。実は今年で定年を迎え退任されます。
「就任したばかりのときは、残された二年間という短い期間では何もできないと思い、失望感もありました。しかし、皆さんの協力によって、学校は大きく変わることができました。今は感謝の気持ちでいっぱいです」

(取材・文 江口 陽子)

農園の横にはノボリ旗が
農園の横にはノボリ旗が