FIFAワールドカップで実現したあるデザイナーの思い
~ソニーの「Public Viewing in Africa」~

2010/04/30

 2010 FIFAワールドカップの開催が近づき、徐々にサッカーの話題を耳にする機会が増えています。サッカーファンにとって、応援もサッカーの楽しみの一つ。熱心なファンになると、自分のチームだけでなく相手のチームの応援も盛り上がってこそ、いい試合となるという向きがあります。ところが、FIFAワールドカップの開催地であるアフリカでは、国民のサッカーへの関心は高いのに、テレビの普及率が低く、せっかく自国の選手がFIFAワールドカップに出場するというのに、応援すらできない人たちがいます。
 この状況を何とかしたい。アフリカの人たちが、FIFAワールドカップで応援できるような場を設けられないだろうか。このような思いを日ごとに強くした人がいました。その男性は、電機メーカー、ソニーの社員です。ご存じ、ソニーは世界最高級の性能を誇るテレビやプロジェクター、ブルーレイディスクなどの映像装置を製造している会社です。アフリカの地に映像装置を設置すれば、みんなで試合を観ながら応援できる。その社員は、まわりのサッカー好きにたちにこの気持ちを伝え、多くの人から賛同を得ていました。


■官民連携のプロジェクトが発足

 ちょうどその頃、ソニーグループは2010 FIFAワールドカップのオフィシャルパートナーとなり、イベントなどの案が社内の多くで出されていました。CSR部CSRマネジャーのシッピー 光(みつ)さんのところにも、先のサッカーを愛する社員たちのアイデアが届いていました。シッピーさんは何とか協力できないものか考えました。しかし、映像を届けるといっても、前例のないことですし、ソニーのアフリカでのビジネス基盤は限られているため、たやすく実現できそうもありません。くわえて、映像を届けるだけではCSR活動として何かが足りないような思いもありました。

 そもそも、アフリカはテレビ普及率よりも、もっと深刻な課題をたくさん抱えています。その一つに、HIV/エイズのまん延の阻止があります。シッピーさんは、JICA(国際協力機構)がメディアを使ったHIV/エイズの教育・啓発を支援していることを知りました。そのプロジェクトとソニーの技術を組み合わせることで、映像を届けるだけで終わらない、より価値ある活動ができるのではないか。そして、話し合いを重ねた結果、ソニーの社会貢献活動とUNDP(国連開発計画)、JICAによる国際協力活動を組み合わせた官民連携のプロジェクト、「Public Viewing in Africa(パブリック・ビューイング・イン・アフリカ)」が誕生しました。このプロジェクトは、FIFAワールドカップ開催にあわせ、これまでの「HIV教育」に「サッカーの試合の映像上映(パブリック・ビューイング)」を組み合せたものです。現地の子どもたちは試合を観戦することもできますし、楽しみながらHIVについて学べるようになりました。




パブリック・ビューイングの様子。参加者は映像にくぎづけ
パブリック・ビューイングの様子。参加者は映像にくぎづけ




「昨年に開催されたFIFAコンフェデレーションズカップで、パブリック・ビューイングをトライアルしてみようということになりました」(シッピーさん)

 とはいえ、ソニーの製品は、アフリカの農村で使用されることを想定されていません。たとえば輸送で生じる揺れにしても、映像機器のような精密機械が、長時間でこぼこ道で揺られるようなアフリカの厳しい環境にも耐えられるのでしょうか。

「実現出来るのかどうかもわかりませんでしたし、私たちの活動を現地の人が喜んでくれるのか、また、HIV/エイズ教育・啓発への効果があるのか、全く分からず、手探りで進めました」(シッピーさん)


■トライアルは大成功

 ところで、技術者というものは自社製品を誇りに思い、愛着をもっています。たくさんの人に自社の製品を使ってもらいたい。そして、その人たちに喜んでほしいという気持ちでものづくりをしている人が少なくありません。プロジェクトのメンバーには技術スタッフもいます。自分たちのビデオプロジェクターやブルーレイディスクが条件の悪いアフリカでも、きちんと動作できるようにしたい。プロジェクトが進むにつれ、技術者魂が燃え上りました。
 しかし、現地に到着してみると、地面の状態が悪く、日本では考えられないほど、凹凸がありました。そこで、板を差し込み水平にする工夫をしたり、その場にあるものを使ったりして、発生する問題へ臨機応変に対応していきました。
 苦労の末、試合の映像をプロジェクターに映し出すことに成功したのも束の間、アフリカは日本のような安定した電力供給はありません。発電機を利用していましたが、停電が発生して、映像が途切れるハプニングが発生しました。おまけに雨が降りだす始末。それでも、技術スタッフの尽力で持ち直し、試合の映像は無事届けることができ、大盛況のうちに終了しました。試合の前後、ハーフタイムでは、エイズに関する劇やクイズを実施しました。

「皆さんの力が合わさり、うまくいったのだと思います」(シッピーさん)

 地方での参加者は通常のイベントの5倍もの人数が集まり、HIV検査受診者も3倍というHIV/エイズ教育・啓発活動への高い効果を実証できました。

 6月、いよいよFIFAワールドカップが始まります。「Public Viewing in Africa」は、トライアルの結果から、防水強化など、いくつか装置に改良を加えて、万全の態勢で臨む予定でいるといいます。

(取材・文 江口 陽子)




プロジェクト
皆さんもこのプロジェクトに参加できます。
「Earth F.C. (アース エフ シー)」ウェブサイト上でクリックすることで、アフリカの子どもたちへのボール寄贈に繋がります。(www.sony.net/earthfc/




ボール
アフリカの子どもたちは荒れたグラウンドでぼろぼろになったボールを使っています。



※昨年開催したトライアルの映像をご覧になれます。
http://www.youtube.com/watch?v=7b70saN66qQ