全国に広がる「弁当の日」
~全校全学年、全員参加、宇都宮市の取り組み~

2010/07/27

「親は手伝わない」
 自分でつくった弁当を持参して、お昼に食する「弁当の日」が全国的な広がりをみせています。『たべものがたり』でも紹介した「弁当の日」。献立から調理、後片付けまで、親の手伝いなしで、子どもだけで全てする。たったこれだけのことですが、一食分の弁当をこしらえることの大変さ、親のありがたさ、食物への感謝を学んだ子どもたちには、驚くほど変化が現れるといいます。

 始まりは香川県の中学校からでした。たった一校だった実践校は、いまでは39都道府県計578校に拡大しています。中でも、宇都宮市の取り組みはもっとも規模が大きく、市内の全小中学校93校、全学年4万人以上もの児童、生徒が実践しています。子どもによって、成長の過程も、家庭環境もさまざま。そのなかで、一斉に取り組むことは、困難がともないます。宇都宮市が「お弁当の日」*を開始したのは2008年。どのようにして、取り組みを進め、全員参加を定着させたのでしょうか。

■事情の異なる家庭をどのようにしてとりまとめたか

 その日、「お弁当の日」事務局のメンバーは、うれしさのあまり涙をこらえられずいました。視線の先にあるのは、事務局に寄せられたお弁当の日の感想です。楽しかった。ためになった。またやりたいという子供たちの声が届いたのです。

「弁当の日を始めてよかったと実感しています。前例のないことですし、始める前までは不安もありました。市内には、いろんな地域、家庭があって、それぞれ課題を抱えています。それを踏まえたうえで、たとえ完璧でなくてもいいから、目標だけは見失わずに進めていく。ここが一番難しい点でした」(宇都宮市教育委員会 学校健康課 課長 片桐幸枝さん)
 弁当をこしらえるといっても、母親の体が弱く、親が関われない家庭もあります。そのときも、子どもが「お母さんが病気で悲しい」という気持ちになるのではなく、親ができないのなら自分が代わってがんばる。そのことを周りはほめてあげる。「お弁当の日」の事務局を務める片桐さんたちは、参加する子どもや学校、家庭がいい形でお弁当づくりとかかわれるように働きかけを惜しみませんでした。





お弁当1 お弁当2

お弁当3
「お弁当の日」の様子。「私のお弁当です!」



 また、地域には、両親と一緒に暮らしていない、施設で生活する子どももいます。弁当の日を進めるにあたっては、親のいない子どもが実施するのは無理なのではないか、という考えもありました。「親がいないからできない、施設だから無理というのはおかしい」。片桐さんたちは知恵を絞りました。そこで、施設では卵を用意して、子どもたちが栄養士らと協力し、一品だけ、自分の好きな卵料理をこしらえることにしました。
「子どもたちが頑張り、その姿を認める、ということができたのがよかったと思っています」
 施設から、ありがとうという感想が届きました。始める前までの心配が、喜びに変わり、片桐さんたちの胸を熱くしました。

■お弁当コンクールになってはいけない

「単にお弁当をこしらえるイベントにしたくなかった」
 本来、弁当の日は親に手出しをしてもらわずに、子どもだけで後片付けまで終わらせるものです。ただし、低学年にとってすべて一人で、というのは無理があります。そこで、宇都宮市では、「親の手助けなしに」は中学校になってから達成できればいいと考え、学年ごとに最低限すべき目標をまとめました。
 小学校の低学年は家族と一緒に献立を考え、食材の買い物をすればよい。中学年は家族と一緒に食材選びを、高学年でバランスのよい献立を考えられるようになればいいと定めました。

 くわえ、実施回数にも柔軟性が持たされています。回数は、10月から2月の間、年に最低一回実施すればいい。もちろん、できる学校は回数を増やしてもかまわないとしました。実際には、年に3、4回も実施する学校が増えてきたといいます。

 実施内容にも柔軟性をもたせ、学校に委ねています。初回の「お弁当の日」は、児童は空の弁当箱を持参し、そこに給食を詰めるだけに留めた学校もあります。まずは、自分がちょうどよい分量を知ることから始めたい、という理由から、このような方法をとったのです。また、クラスによっては、おにぎりだけ持参して、おかずは給食を弁当箱に詰めて、お弁当を完成させた学校もありました。
「食への関心、感謝。この目標が達成される方向に進んでいれば、あとはできることをすればいいという思いがありました」(片桐さん)
 柔軟性を持たせたこと。これがお弁当の日の活動が成功した要因の一つ。そしてもう一つ、大きな要因は事前準備に注力したことがあげられます。宇都宮市では、食育基本法が施行される前から食育に力を入れていました。通常、栄養士は規模の大きな学校のみ在住していますが、宇都宮市では食育に欠かせない栄養士を規模の大小にかかわらず、すべての学校に配置しました。




宇都宮市 教育委員会 学校健康課
宇都宮市 教育委員会 学校健康課
左:石渡美穂さん、中:片桐幸枝さん、右:加藤憲一郎さん



 そして、お弁当の日が実行される一年前から、準備期間として、事務局は校長会、栄養士や家庭科の先生など、関係各所への説明を丁寧に実施し、理解を得ました。学校の関係者の理解がなければ、どんなに事務局が張り切っても、意味のある活動にならないことも起こります。この準備があったから、まわりの協力を得ることができたといえます。そして、なにより、子どもたちの「またやりたい」という声が、「お弁当の日」定着を進めていく上で大切な声になりました。

(取材・文 江口 陽子)


*宇都宮市は本来の弁当の日と目的は同じですが、独自のアレンジを施していることと「弁当」を大切にするという意味合いを込めて、頭に「お」をつけ、「お弁当の日」としています。