星を眺める効用は意外と大きい
—国立天文台、スターウィーク

2010/08/19

 野鳥を観察するための週間、「バードウィーク」があるように、星を眺める「スター・ウィーク」というものがあるのをご存じでしょうか。毎年8月1日~7日はスター・ウィークという、星空に親しむ週間が設けられています。もっと、多くの人に星を観察する喜びを伝えたい。公開天文台をたくさん利用してほしい。このような思いのもと、有志が集まり、1995年に始まりました。

 スター・ウィーク期間中は、全国で数多くのイベントが開催されます。世界天文年だった昨年は全国で700万人もの人が参加しました。イベントのなかには、「今、星を見ています」(いまほし)といって、見知らぬ人同士、それぞれの場所で、みんなで星空を見あげ、報告するというものです。報告者は掲示板に報告を書き込みます。
「(報告者)天の川をながめたり、望遠鏡で天体を見たりしていました。もうペルセウス群の流星がだいぶ出てますね」
 報告があると管理人が返事を返します。
「お待ちしておりました。報告ありがとうございます。昨夜も透明度のいい空でしたので、天の川の撮影を集中的におこなっておりました」
 このようなやり取りが期間中は何件も続きます。

「これからも、50年、100年と続いていけばうれしいです」
 事務局を務める国立天文台 渡部潤一氏はスター・ウィークについて、続いていることが何よりも評価すべきことだといいます。というのも、スター・ウィークを支えているのは、地方の公開天文台の職員や天文愛好家などのボランティアが中心です。予算もなく、スポンサーもいないなか、ポスターのデザインやキャッチコピー制作、写真撮影などをはじめ、ほとんどの業務は星が好きというボランティアによって成り立っています。

「開始した1995年は小規模で、まずはみんなでスクラム組んで始めることが目的でした。参加施設も当時は60くらいしかありませんでした」
 そのなか、少しずつ仲間が増えていき、現在、参加施設はおよそ200個、年によってはイベントの内容次第で、地元のミニFMなどの参加も出るようになりました。




■星を眺めて得られるもの

スター・ウィークのポスター
スター・ウィークのポスター。ボランティアにより制作




「星空を眺めることは、子どもたちにとって、世の中にはまだまだわかっていない世界があることを知る機会になります」
 これがとても大切なことだと渡部氏は言います。今の時代、ネットを利用すれば、たいていのことはすぐに解明でき、子どもたちは自分が万能であると思い違いしやすい側面があります。しかし、現実はそうではありません。知らないことを知ろうと求め考えること。答えの糸口が見つかったときのワクワク感。どこまでいっても、宇宙の謎を全て解決することは不可能ですが、「わかっていないことが存在する。ここに面白さがある」。星空を眺めることで、子どもたちに実感してほしいと渡部氏は願っています。

 くわえて、渡部氏は星空を眺めることは「宇宙的視座」を獲得することにつながるといいます。この「宇宙的視座」というのは、地球を一つの運命共同体として認識しなおすことを指します。国や市町村といった境を越えて影響しあう今の時代、自分のことだけを考えて物事を決めていたら、どこかで行き詰ってしまうことになるでしょう。

 自分のことを大切に思うことは必要ですが、たとえば、自分が設計した商品が最終的に地球にどう影響を及ぼすのか。ひいては、宇宙全体にどんな影響があるのか。渡部氏はこれからの時代は、このような視点でものを考えることがますます必要になってくるだろうといいます。星空を眺めていると、自身が宇宙の中の一つという存在であることがより強く感じられ、結果、自然と宇宙的視座が身につくのかもしれません。

「本物の星を観てほしいですね。都会ではあまり星は見えませんが、目を凝らすと流れ星が見えることもあります」

■宇宙的視座を得るメリット

 社会の中で自分ができることは何か。このような視座を得ることは、自分だけでなく、周りの人をも幸せにします。渡部氏の生き方をみると、「宇宙的視座」が自身の人生を有意義なものにしているようにも感じられます。渡部氏は、現在は教授として研究者としての道を歩む傍ら、スター・ウィーク事務局をはじめ、国立天文台の広報の仕事も担っています。

 今でこそ、公開天文台が広報室を備えることは珍しくありませんが、スター・ウィークが始まった1995年ころは、まだ広報活動は天文台にとって馴染みの薄いものでした。そのなか、広報活動に参加することは、自身の研究時間を削らなければならず、発表する論文の数が減る可能性も含んでいます。場合によっては、論文数の減少は、研究者としての進路に望ましくない影響を及すこともあります。そのなか、渡部氏は広報の仕事を引き受けるかどうか迷ったといいます。

「研究だけに専念するほうがラクです。広報の仕事は他者に頭を下げることも多く、簡単な仕事ではありません」
 それでも、渡部氏には天文に関することを人々に伝えたいという思いが大きくありました。

「広報活動は、研究者という軸では、他に後れを取る要因になるかもしれませんでしたが、世の中への貢献という視点で考えたとき、優秀な研究者はたくさんいますが、人々に天文のことを伝えられる人はそう多くはありません。天文学はすぐに儲けに直結する分野ではありませんし、我々は税金で食べさせていただいている側面があります。したがって、説明責任をきちんと果たすことは当然のことです。そうしたときに、広報の仕事ができるのは誰かと考え、私が広報の仕事を引き受けることを納得しました」
 研究者のなかには、渡部氏のように専門的なことがらをわかりやすい言葉ですんなりと説明できる人はそう多くはいません。

「天文学の中で面白い発見があったとき、その面白さが伝われば、情報を受け取った人も心豊かになることもあるでしょうし、天文学への支持も増えるのではないかと思いました」

 とくに、天文学は空を見上げるだけで、すべての人が「同じものを見ること」を共有できる学問です。子どもたちにとっては、理科を好きになるいい機会になるのではないかと渡部氏は言います。

 渡部氏が所属する国立天文台はスター・ウィークだけでなく、観測・研究・開発を広く推進しています。設備は世界最先端の観測施設を擁しており、天文に関する研究が盛んです。なお、4月に発行した『earth code』では、同じく国立天文台の小久保英一郎先生が、地球の誕生について執筆してくださいました。小久保先生と渡部先生、どちらの話からも、星を眺める素晴らしさ、地球の起源について考えることの素晴らしさが伝わってきます。

(取材・文 江口 陽子)




渡部教授
国立天文台 教授 渡部潤一(わたなべ・じゅんいち)