時代おくれの2からディナー ~石器でカレーをつくる~

2012/04/18

3月2日(金)、「時代おくれの2からディナー」のご招待を受けて、駒沢オリンピック公園のほど近く、東京学芸大学附属世田谷小学校の2年2組を訪ねました。

「時代おくれの2からディナー」
不思議な名前のこの授業。もとになったのが、ダイヤモンド社が昨年11月に全国の学校に寄贈した『survival ism』※。この本を読んだ担任の沼田先生が、「私たちが普段、どれだけ道具に頼って便利な生活をしているのか、子どもたちが感じたり、考えたりするいい機会になる」と、子どもたちが発案した“夕食づくり”に、「家庭科室で作るなら、家で作るのと変わらないから、このメンバーで、ここでしかできないことしよう」と『survival ism』 のテーマ(人間の発明した技術と環境の“関係性”を考える)を取り入れて、授業を企画してくださいました。
授業のタイトルも子どもたちが考えました。今どきガスも使わないし、包丁の代わりに石器を使う。だから“時代おくれ”。じゃがいもや米などを育てるところから始めるのが“1から”とすると、材料は買ってくるので“2から”。あわせて“時代おくれの2からディナー”というわけです。
“2からディナー”の準備は昨年11月から始められました。カレーをつくるためには、野菜や肉を切るための道具が必要ということで、校内の石を拾い、角を磨いて石器を作りました。
12月には、カレーを食べるための道具、お箸とスプーン、さらにお皿も自分たちで作り、1月は、実際に薪に火をつけてお湯を沸かせるかの実験。当日はどのくらいのお米を用意すればいいのかを調べるためのライス実験(給食の献立がハヤシライスの時に自宅からご飯を1合持参し、自分たちはどれだけ食べるのか)など、念入りな準備を経て、当日を迎えました。




タイトルは何にしよう  お箸づくり
「タイトルは何にしよう」                お箸づくり




いよいよ当日!
3月2日 10時30分
「今日は、先生はいつもどおり何も指示は出しません。困ったことがあったら自分達で解決してください。ただし、ケガ人はゼロね!」と、沼田先生。
「はーい!!」と大きな返事が聞こえたと思ったら、調理担当の“カレー班”“サラダ班”、かまど担当の“ファイアー班”、全体の流れをみて、調整する“ミルミル班”前もって招待状を作った“手書き招待状班”のチームに分かれて、子ども37人。お客さん90人。おかわり予想50人を加えた180人分のディナーづくりに取りかかります。
カレー班のじゃがいも係は、さっそく石器を使ってトライ。普通の包丁のようにじゃがいもの上を前後に滑らせますが、なかなか刃が入っていきません。
一つ切るのに5分以上。ボールには180人分のじゃがいもが、まだまだ山盛りです。
「これ、いつまでかかるんだろう…」。と弱気な発言も。
しばらく悪戦苦闘していると、ふと、石をまな板の上において、そこにいもをぶつけてみる子が。3回ほど叩きつけると、パカッとじゃがいもが割れます。それを見て、全員がその手法に転換し、飛躍的に効率がアップ。あっという間に大きなボールいっぱいのじゃがいもが調理されていきます。まさに進化の瞬間。
先生は、本当に見ているだけで、一人ひとりが、驚くほど目標に向かってテキパキと動いています。




「割れた!」  「これで、目も痛くない」
「割れた!」                      「これで、目も痛くない」




11時30分
カレー班の下準備が終わるころ、ファイアー班はかまどに鍋の設置をして、スタンバイ。
「最初は強火」。と前からシュミレーションしてきたとおり、大きなマキをくべます。 
具材を混ぜるのは2チーム体制。背が高い寸胴鍋のため、イスの上に立って、大きなしゃもじでかき混ぜます。かき混ぜ担当は、前に屈んで鍋の中に落ちないように「安全ベルト」を装着。これも準備期間に子どもたちが考えたもの。ひもを背中から二本伸ばし、二人でその紐をしっかり握ります。紐を握る二人の間には、倒れて来てもいいように、体を支える担当者も。「けが人ゼロ」のため、危機管理も万全です。
肉と野菜が次々に炒められ、ペットボトルで水の量を計りながら、水が入ります。
ここからディナー開始の17時30分まで、ゆっくり煮込まれました。




ファイアープラン  安全ベルトをつけて、鍋に落ちないように
ファイアープラン              安全ベルトをつけて、鍋に落ちないように




17時30分
すっかり日が落ち、気温もぐっと冷え込んできて、カレーの香りと湯気が、学校中に広がってきました。いよいよ“2からディナー”の始まりです。
自分たちで作ったお皿にご飯をよそい、懐中電灯で照らしながら、カレーをかけます。
冷めないうちに、といっきにカレーを食べ始める子どもたち。
一口食べたとたんに「おかわりするぞ」という子や、「おいしい!今までで一番おいしいカレー」という子。みんなとてもうれしそう。そして、「“普通に”おいしい」という大人の驚いた様子に、満足げな表情の子どもたち。
自分たちが作った道具の使い勝手について聞いてみると、「スプーンは厚すぎて、食べにくい。もっと口にいれるとこを薄くしないとダメだった。次はそうしよう」、「お皿小さくて、溢れちゃう」、と改良点を見つけている様子でした。
こうやって道具は磨かれてきたんだな、と子どもたちの感想から改めて実感しました。
 何時間も煮込まれたカレーは具材がトロトロ。寒い夜には格別のディナーでした。
180人分のカレーはあっという間に完売。




スプーンはもっと改良が必要  「5杯食べた!」という強者も。
スプーンはもっと改良が必要            「5杯食べた!」という強者も。



「おいしい!けど少し食べにくい」
「おいしい!けど少し食べにくい」




「2からディナー」とサバイバル
沼田先生の指導のもと進められてきた“2からディナー”の準備期間は4ヵ月。すごく長い時間のように感じます。
準備期間について聞いてみると、
「カレーを180人分つくるためには、どのくらいの水が必要か。用意した鍋で容量は足りるのか。買い物リスト(掛け算)と予算(大きな数)も、全部算数です。その他にも、企画書を書いたり、工程表をかくのは国語、スーパーに行って材料の価格、産地をみるのは社会。自分たちだけでカレーをつくることで、子どもたちの意欲を高め、教科で習ったことを実体験を通して活用することで、複合的に学習できるんです。だから60時間は決して長い時間ではないんです」。と沼田先生。



授業計画表
※授業計画表~実施はクリックで拡大~



こうして学んだことは、実生活にも活かされている様子でした。
ゲストで来ていたお母さんたちも、
「この授業のために、リハーサルといって、家でもカレーを作ってくれたんです。普段は食卓に運ぶくらいのお手伝いなんですけど」。
「野菜を買う時に、これは今高くなってるとか、自分の食べるお米の量は0.5合だよって言ったり、本人が食事のことをちゃんと考えるようになりました」。
と、子どもたちの成長を感じていました。

授業の翌日書かれた子どもたちの感想文を読んでみると、
「いつも使っているキッチンやコンロがどれだけべんりなのか分かりました。むかしの人は、ごはんを食べるのに、どれだけ時間がかかったのだろう」
「石のほうちょうは切れなくてたいへんだった。ほうちょうがこの世に生まれてよかったな」
など、この授業を通して、当たり前だと思っていたことが、実は多くの“技術”に支えられていることに自然と気づいたことが分かります。
想定外のことが起こる現代。当たり前と思っていたことが当たり前じゃない。状況を判断して、使えるものを使って問題を解決するサバイバル力が、これからを生きぬくために必要なスキルなのかもしれないと、見学していた私たち大人も、子どもたちのカレーづくりに気づかせてもらいました。

<未来図書室事務局>


※『survival ism』 私たち人類は、この“手”で生み出してきたさまざまな技術でどんな困難な環境をも乗り越えてきた。激動の時代を生きる現代に「生存への意志」を問いかけるメッセージ・ブック。2011年11月全国の小学校・中学校へ寄贈を行いました。
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