水遊びだけではない、本格的な川での学習
~多摩市立連光寺小学校 多摩川を訪れて~

2008/03/31

多摩丘陵の北端、多摩川中流にある東京都多摩市。多摩川の支流である大栗川が多摩川と合流する地点には、小学生が頻繁に訪れる姿があります。東京都多摩市立連光寺小学校では、総合学習、各学年の活動として4年生は多摩川を訪ねています。
初回は4月。小学4年生になると月に一回、学年全員で多摩川まで歩いて行く日があります。6月になると、全員共通の体験としていよいよ川に入ります。川に入るのは大変なことです。最初は冷たいからイヤ、ぬれるからイヤと言う子もいます。もちろん、嬉々として川に入り、普段の学校で見せないようなイキイキとした顔を見せる子もいるようです。

子どもは水と火が大好き。それと動くものが大好き。水の中には普段触れることのない魚が泳いでいます。
「なんてきれいな魚なんだろう」
「それはね、オイカワという名前の魚なんだよ」
生き物に関する研究機関で働く人や大学院生などを招き、ゲストティーチャーとして子どもたちに魚や植物の名前の由来や絶滅危惧種や帰化植物などについて話をしてもらっています。
川は子どもたちを惹きつけ、わくわくさせる優れた教材なのです。ただし、連光寺小は多摩川に行って、水に触れ、魚を捕まえて……、イベントだけでは終わらせていません。初めて、総合学習で多摩川を訪れたのは約7年前。最初は手探り状態で、次の年に繋げていくことが精一杯でした。そこから、4年生を受け持った先生などが少しずつ学習内容を改善して、充実させたものへと作り上げていったのです。

■自ら環境を大切にしていきたいと思う気持ち

「水を大切にしなさい、汚してはいけません」
子どもたちは環境問題の授業で水を大切にしなければならないことを習い知っています。でも、この言葉が具体的にどういうことなのか、理解している子どもは少ないのです。
「多摩川に行って、オイカワという魚に触れる。貴重な鳥をずっと観察しているおじさんに写真を見せてもらう。このような自然や人とのふれあいを通して、多摩川をきれいなままにしておきたい、という思いが子どもの中に自然に湧き上がるのだと思います」
と語るのはピアティーチャーの羽澄ゆり子先生です。多摩市にはピアティーチャー制度というものがあります。2001年度に多摩市の単独事業としてスタートしたもので、ピアティーチャーは教員と協力して様々な学習活動に従事する役割を担います。羽澄先生はもともと哺乳動物の生態学を専門とする研究者。総合学習の多摩川訪問などではご自身の知識を使い、授業内容の企画立案から指導等を他の先生達と協力しながら担っています。
子どもたちが多摩川に行き、すごく面白かった、ステキだったと感じることで地域や多摩川に対して愛着を持ってくれたらいいな……。先生たちの思いが多摩川を訪れる学習には込められています。
子どもたちは大きくなったとき、自分が育った場所を振りかえることもあるでしょう。いっぱい楽しい思い出や豊かな自然、人間関係を思い出せたらステキです。『私が育ったところは良い場所だった』、と思えるようなふる里作りをしたいというのが学習の根底にあるのです。
地域を好きになることで、大好きなふる里を大切にしたい、汚したくないという思いが言われなくても自然に出てくる。これが連光寺小の環境教育のもとになっているのです。


4年生が作った作品をパノラマ写真で写したもの。多摩川を表している


作品の全体



作品の一部



連光寺小学校周辺の航空写真。青い線のところが川になっている


■「もっと知りたい」を大きく育てる

2学期になると、調べ活動が始まります。子ども一人ひとりが多摩川に関する調査テーマを決めます。植物、野鳥、水質、魚など、自分が興味を持ったものをテーマにして、本やインターネット、テーマに詳しい大人への聞取りなどを通して、課題のまとめ、発表をします。
知識を深めるために、自分の知りたいことをどうやって調べていったらよいのか。子どもたちは学習を通じて、企画して実施する能力や考える力を高めていきます。
ただし、多摩川に通って得られたものは知識だけではありません。
子ども達が学んだものの中には『多様性』があります。例えば、鳥について調査を進めていくと、鳥はくちばしの形によって食べている物が異なることに気づきます。魚でも大きいものしか食べない鳥と小さなものを食べる鳥がいます。同じ鳥でも、くちばしの形ひとつにも違いがあるのです。小さな魚を食べている鳥は川に小さな魚がいなくなったら生きてはいけません。これは人間社会でも同じです。それぞれが存在するには、異なった他の存在が必要なのです。
一学期は「川の水ってきれい。川には生き物がいっぱいいるんだね」と言っていた子どもが三学期になって言うことが変わりました。
「先生、多摩川は生き物同士がつながって生きている川なんだね。どの生き物が多くても、少なくても良い多摩川にはならないんだね」


東京都多摩市立連光寺小学校
左:4年学年主任 横山 睦子先生
中:校長 藤井 香代子先生
右:ピアティーチャー 羽澄 ゆり子先生

普段、先生からよく注意されている子どもが川でたくさん魚を取って、皆から一目置かれることもあります。鳥にもいろんな種類があるように、子どもだって、いろいろで良いのです。
川から何を学ぶのか、答えはありません。自分から見つけ出した答えは、人から教わったものよりも心に残るものです。調査のテーマ、手法など、まずは子どもが全部考える多摩川訪問。答えのない学習から子どもが学んだものは一人ひとり違うことでしょう。でも、みんなの心にずっと残っていくところは同じなのです。

(取材・文 江口 陽子)