国際協力を通して子どもたちに伝えたいこと〜蕨市立第二中学校〜

2008/12/25

「国際協力ってお金もかかるし、大がかりなことだと思っていた。と、話す子どもは少なくありません。でも、学習を通して、子どもたちはとても身近なことが国際協力につながることに気づいたようです」
 このように語るのは、埼玉県蕨市立第二中学校の木村仁美教諭です。蕨二中では総合的な学習の時間を利用して、国際理解を深めるためのプログラムを組んでいます。国際協力というと、「募金やボランティアをすること」。このようなイメージを抱く人は少なくありません。蕨二中の国際協力のテーマは「心豊かな生徒の育成」です。このテーマに設定した理由は何か。そして、どのようなプログラムになっているのか。蕨二中の国際協力を紹介します。

 11月20日、蕨二中に一人の女性が訪れました。JICA(ジャイカ 独立行政法人 国際協力機構)の青年海外協力隊として活躍していた杉本直子さんです。JICAには国際協力出前講座といって、青年海外協力隊のOB・OGや専門家、JICA職員などが学校などに出向いて、国際協力や開発途上国についてお話するサービスがあります。講師は国際協力経験者がほとんど。自身の体験に基づいた話なので、内容の濃い講座となるところが特徴です。杉本さんが蕨二中を訪れたのは、授業として子どもたちに自身の経験を話すためでした。

 杉本さんは2006年からおよそ2年間、パラグアイで活動していました。
「青年海外協力隊は開発途上国の人々がよりよい生活ができるようにお手伝いする団体です。国際協力とは物をあげたり、お金を貸したり、ということだけではありません。共に考え、共に働く、人を通じた協力。それがJICAの国際協力です」
 杉本さんはパラグアイで、現地の団体で広報の仕事を担当しました。パンフレットやポスターなどの製作やカレンダーデザインのアイデアを考えました。これは美術大学を卒業し、画家でもある杉本さんにとって、自身の特技を活かせるものでした。


埼玉県蕨市立第二中学校 校舎
埼玉県蕨市立第二中学校 校舎


杉本直子さん 青年海外協力隊としてパラグアイで活動した
杉本直子さん 青年海外協力隊としてパラグアイで活動した


■出発前と後との違い

 日本に伝えられているパラグアイとは、貧困や治安の悪さ、衛生面での問題が前面に出ています。パラグアイは日本よりも物も少なく、そこで暮らす人々は不幸なのではないか。杉本さんは日本を発つ前までは、パラグアイという国は日本よりもある意味劣る部分がある国だと思っていたといいます。ところが、現地で暮らしてみると、抱いていたイメージが必ずしも正しくないことに気づきます。
「現地の人の笑顔がいいのですよ」
 パラグアイで撮った現地の写真が教室のスクリーンに映し出されます。若者たちが仲間とともにいる姿。音楽を楽しむ人たち。サッカー場の熱気。生活を楽しむパラグアイの人たちは笑顔で溢れていました。

「日本には物がたくさんありますが、物があることが本当の幸せなのか」
 ここに気づくことに学習のねらいがあると木村教諭は言います。最近は報道が減り忘れられがちですが、日本の教育現場には、まだ学級崩壊やいじめなどの問題が残っています。地域や学校によって程度は違いますが、教師の中にはどのように指導したらよいのか、悩み心を痛めている方が少なくありません。学習や学校行事、部活動などに対して熱心に取り組む生徒が多数を占める一方で、子どもたちの人とのかかわりの希薄さ、思いやりの欠如など、一部には取り組まなければならない課題があるのも事実です。

「子どもたちはこれからの日本を支えていく人たちです。物の豊かさと心の豊かさは違う。そして、本当の幸せとは何かということに気づいて欲しかったのです。パラグアイは物の豊かさでは日本に劣るかもしれませんが、現地の人たちの多くは幸せに暮らしています」(木村教諭)

 日本という国を外から見つめなおす機会はなかなかありません。別の視点で日本を見ることで、子どもたちは今の自分がとても恵まれていることに気づくでしょう。その上で、心豊かに幸せに生きていくにはどうしたらよいか、幸せとは何か。絶対的な答えは誰にも出せませんが、これから先にどこに向かったらよいのか、道筋は見えてきます。少なくとも、人と人とが争うことよりも、思いやりをもって助け合うことのほうが、幸せには近いということがおぼろげながらも感じることでしょう。


パラグアイの食べ物 チパ
パラグアイの食べ物 チパ


埼玉県蕨市立第二中学校 木村仁美教諭
埼玉県蕨市立第二中学校 木村仁美教諭


■テキストは『1人ひとりにできること 1人のためにできること』

 学習内容は、青年海外協力隊の講義のほか、ビデオ鑑賞や調べ学習、ユニセフ訪問などが組まれています。そのほか、『1人ひとりにできること 1人のためにできること』(国際協力機構(JICA)編/ダイヤモンド社)をテキストとして利用する学習があります。この本は「国際協力を日本の文化に」と帯に書かれている通り、世界で起こっている食糧、医療、貧困などの問題に、様々な人が取り組む姿が発言集という形で綴られています。登場するのは、北澤 豪、赤井 英和、藤原紀香など、スポーツ選手から芸能人、アーティスト、そして各地域で活動する個人まで、バラエティに富んでいます。蕨二中ではこの本を子どもたちに貸し出しました。読後、感想や自分にできる国際協力をワークシートにまとめています。

「感想にはこんなことが書かれていました。世界には濁った水を飲んでいる人や、食料がなくて苦しんでいる人がいる、ということを知らなかった、と。今まで、給食を残すことに何の疑問を感じていなかったんですね」
 この生徒が出した「自分にできる国際協力」は「残さず食べる」というものでした。大きなことではなくてもいいのです。人を思いやる。その気持ちに立ち返ることが一番大切なことなのでしょう。

「どの国にも発展は必要だけど、本当に大切なものは自然とか、心とか、そういうものなんですよね」
 木村教諭は語ります。

(取材・文 江口 陽子)


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