CO2削減の切り札となるか
~炭素繊維をご存知ですか~

2009/01/30

 日本の環境技術は非常に高いレベルにあります。日本企業が世界に誇る技術はトヨタのプリウスなどの身近な製品だけではありません。実のところ、すごい技術は意外と地味で目立たないところに隠れています。決して華やかだとはいえないけれど、実力がある。今回は日本企業の底力ともいえる、注目の素材を紹介します。
 紹介する製品は炭素繊維という素材です。名前の通り「糸」です。しかも、炭素、炭化しています。とても細い糸で、一本はおよそ数ミクロン(マイクロメートル)しかありません。それが数千本~一万本以上も束ねられ糸となります。とても細いのですが、強さは鉄のおよそ10倍。それでいて、比重は鉄の4分の1という軽さに特徴があります。炭素ですから錆びませんし、耐熱性、耐低温性などの点で優れています。
 この炭素繊維。実は環境対策の切り札と期待されている素材なのです。でも、糸がどのようにして、環境対策に貢献するのでしょうか。


■炭素繊維が環境対策として有効な理由

 CO2などの温室効果ガスを削減するにはさまざまな方法があります。その一つは飛行機や車の燃費をよくすることです。燃費を下げる方法の一つは軽量化。人間も体が重いと、走るのが大変です。炭素繊維の特徴は軽いことにあります。航空機や自動車を軽くすれば、燃費が向上して、運航(走行)時のCO2排出量が削減できるということです。
 では、どうやって飛行機や自動車を軽くするのでしょうか。答えは機体(車体)の材料である鉄などの素材を炭素繊維に置き換えることが一つとしてあります。炭素繊維なら鉄よりも軽いですから、機体(車体)の軽量化が図れます。その結果、燃費がよくなるのです。


東レ トレカ
炭素繊維「東レ トレカ」


炭素繊維の拡大写真。
炭素繊維の拡大写真。一本の太さは数ミクロン


 炭素繊維のトップメーカー、東レの試算結果によると、航空機の機体を20%軽量化した場合、一年でCO2が2700トンも削減できるといいます。同じように、自動車の車両を30%軽量化すると、0.5トン削減できるといいます。すでに、炭素繊維はボーイング787などの航空機の機体や自動車のシャフトなどに使われています。
 炭素繊維はとても優れた素材ですが、今まであまり広がりをみせませんでした。それは価格が高いうえ、成型が難しかったからです。鉄やプラスチックのように、短時間で思い通りの形を作れるわけではありません。ここに炭素繊維の弱点がありました。


■炭素繊維で日本は世界のリーダー

 炭素繊維を作るには高い技術が必要です。製造するには、最初に原材料であるアクリルをドロドロに溶かし生成する型に流し込みます。底にはシャワーヘッドのような穴が開いており、穴から炭素繊維のもとが出てくるのです。これを焼いて、炭素繊維が出来上がります。
 簡単そうに聞こえますが、実際は数ミクロンの細い繊維を絶やさずに一定の太さでシャワーヘッドの穴から出し続ける。これは容易ではありません。途中で切れてはいけませんし、糸の先頭と真ん中あたりで太さが違っては困ってしまいます。太さが一定で均一、かつ長くする。ここに東レのノウハウの一つが結集されています。
 もうひとつ難しいのは、成型と呼ばれる部分にあります。炭素繊維そのものは糸ですが、実際の製品には樹脂と混ぜ合わせて板状などの形あるものに成型して利用されるものです。成型方法はさまざま。その一つに、たい焼き器みたいな型に炭素繊維の織物を並べ、そこにエポキシ樹脂を流し、高温で焼くといった方法があります。ただし、エポキシ樹脂はドロッとしているので、流し込むのに時間がかかります。自動車のように一日にたくさんの台数を製造する現場では、短い時間で成型しなければなりません。そこで、東レでは手作業を自動化するなど、さまざまな改良を加えました。そして、160分かかっていた成型を10分にしたのです。
 この改良を加えられた生産工程は特殊で高い技術力が必要となります。そう簡単に、他国の素材メーカーが追いつけるものではないといわれています。炭素繊維の開発は日本がとても進んでいるといわれるのは、ほかの国ではできないような技術があるからです。
 短い時間で、安く成型できるようになってきたのは最近です。これからは、自動車を始め、もっと多くの製品に炭素繊維が使われる可能性があります。もっと、日本の技術が環境への配慮に貢献することでしょう。

(取材・文 江口 陽子)